コンセプトアルバム
「A Spring Breath」
2022年3月16日（水）発売

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今作は、2021年12月に開催されたflumpoolとして初のビルボードでのアコースティックLIVEからの流れをくむコンセプトアルバムとなっており、新しい何かが始まる春の情景の中で出会いと別れの瞬間を彩り、少しでも前向きになろうとする「春の息吹」をコンセプトにしたアコースティックアレンジのアルバム。

「花になれ」「証」「君に届け」「Hydrangea」「どんな未来にも愛はある」「two of us」という、flumpoolの代名詞的な楽曲からLiveでファンからの人気の高い楽曲までコンセプトに沿った選曲で既発曲のリアレンジver.が6曲収録され、さらに、アルバム表題曲「A Spring Breath」など新曲5曲を加えた既発曲と新曲が融合した全11曲の充実した内容に。

flumpoolからの素敵な春の贈り物のような作品。

TRACK LIST

ファンクラブ限定BOX,通常盤共通

01. 君に届け
02. サヨナラの瞬間
03. two of us
04. 明日への帰り道
05. 証
06. 夢から覚めないで
07. Hydrangea
08. 誰かの春の風になって
09. どんな未来にも愛はある
10. 花になれ
11. A Spring Breath

• 音楽ライター・大前多恵
  によるライナーノーツはこちら

  flumpoolが3月16日（水）にリリースするニューアルバム『A Spring Breath』。デビュー曲「花になれ」や「君に届け」などの代表曲及びライヴでの人気曲のリアレンジver.６曲と、表題曲「A Spring Breath」を含む新曲５曲で構成。彼らのこれまでのどのアルバムとも異なった聴き心地であり、最初から最後まで驚きの連続、非常に新鮮なアルバムとなっている。タイトルが示す通り“春の息吹”をコンセプトとし、全編アコースティックアレンジに挑戦。2021年12月30日・31日、彼らが初めてBillboard Live TOKYOのステージに立ち、アコースティックライヴ（『ROOF PLAN～Acoustic in Billboard Live～』）を行った延長線上に位置する作品と言える。山村隆太（Vo.Gt.）、阪井一生（Gt.）、尼川元気（Ba.）、小倉誠司（Dr.）の音楽家としての成熟と挑戦、遊び心と真摯さが共存する充実したアルバムとなっている。
  
  始まりの季節である春には、出会いの数と同じだけ別れが存在しているのは、誰もが知るところだろう。このアルバムは、そんな悲喜こもごもの感情が渦巻く聴き手の心を、大声で力強く励ますというよりも、頬をそっと撫でる風のように優しく触れてほぐし、次なる一歩を踏み出させてくれる力がある。
  
  上述したように、収録曲は新旧混在しており、過去と未来を自在に行き来するようにほぼ交互に配置されている。幕開けを飾るのは、彼らの人気を不動のものにした代表曲「君に届け」。リズムの刻み方を刷新したことで曲の印象がガラリと変わったことに、まずは驚かされた。疾走感に満ちていた原曲と聴き比べてみると、実は大幅なテンポダウンをしているわけではないのだが、流れる時間は随分とゆったりとしている体感だ。ストリングスとピアノを前面に出すアレンジが、たおやかでジャジーなムードを与えている。原曲では四つ打ちのクールな質感が特徴的だった「two of us」は、ホーンセクションの存在感が際立つシティポップのような装いに。その大胆な変身ぶりに、「これは間違いなく面白いアルバムになる！」と、アルバム全体の仕上がりへの期待がグッと高まった１曲だった。
  
  生まれ変わったイントロからは一体何の曲が始まるのか？すぐに判別できなかったM5は、「証」。（震災が起きる前に完成していた曲であるにもかかわらず）東日本大震災で被災した学生たちの心に奇しくも合致し、寄り添い、合唱曲として親しまれた忘れ難い名バラードである。コーラスの温かな息遣いまでしっかりと伝わる前半のアレンジから、洒脱でエレガントなストリングス、ピアノが加わって終盤に向けて高まっていく展開がドラマティックだ。原曲はストレートなバンドサウンドで編まれたライヴでの人気曲「Hydrangea」は、管弦楽と絡み合うことで奥行きを格段に増した。その上軽やかさも失わない、絶妙な形で生まれ変わっている。「どんな未来にも愛はある」はむしろ音の隙間を活かしつつ、耳に残るリフを新しく加えることで新たな表情を曲に与えた。成熟した大人のムードを携える「花になれ」の新装アレンジは、それにしっくりと馴染む山村のどこか気怠い、伏し目がちで歌っている姿が脳裏に浮かぶようなヴォーカルが心地よい。1音1音が粒立ったギターフレーズを情感豊かに紡いでいく阪井。ベルベットのような深く湿ったベース音を響かせる尼川。エモーショナルな瞬間を際立たせる、抑制の効いたビートを繰り出していく小倉。時を経て様々な経験を重ねた彼らが紡ぐ「花になれ」は、多種多様の感情を聴き手の心に巻き起こすことだろう。
  
  全ての曲について言えることだが、どのようなアレンジに変わっても、歌のメロディーラインが常に際立っていてブレないことにも驚いた。メインコンポーザーである阪井のメロディーメイカーとして手腕を再認識する作品にもなっている。また、書き添えておきたいのは、阪井と共に編曲に名を連ねる杉本雄治の存在感である。Billboard でのライヴにも参加した彼は、レーベルメイトWEAVERのヴォーカリストでありピアニストで、本アルバムで卓越したセンスと才能を発揮している。flumpoolが「花になれ」でデビューした後わずか1年で日本武道館のステージに立った時、後輩としてオープニングアクトを務めた13年前の情景を今思い返すと感慨深い。互いの進化が新たなコラボレーションに繋がり、こういった形で作品に結実する、その深い縁にしみじみとするのだった。
  
  新曲群も粒揃いであり、アルバムコンセプトを多様な角度から捉え、多彩に綴った歌詞を楽しむことができる。「サヨナラの瞬間」に描かれている学生生活のディテールは、現役の学生のみならず、かつて学生だった経験のある全ての大人が懐かしく想いを重ねることができるだろう。「明日への帰り道」の主人公は若きビジネスパーソンだろうか。学生時代に描いていた夢とはたとえ形が変わっても日々踏ん張って、時には同期と自分とを見比べもしつつ、家族の存在を支えとしながら働く。そんなリアリティーが刻まれている。煌めく滑らかなピアノの音色、歌うようなフレーズが心地よいミディアムナンバー「夢から覚めないで」は、片想いの相手を送り届ける車中、眠りに落ちた相手の横顔を愛おしく思う気持ちを一筆書きしたような、ミニマムで詩的なラブソング。山村のロマンティストな一面を堪能できる。
  
  「誰かの春の風になって」はストリングスのピチカートで小気味よく幕開けリズミカルに転がっていく、マイナーコードの内省的なナンバー。序盤の歌詞では、悲しみが連鎖する世情を憂え、無力感を＜どこ吹く風の春＞と表現。しかし終盤に向かうにつれ、＜ため息のように　つぶやいた歌も＞＜春の風になって＞と視点を変えて、かすかではあるが希望をしっかりと描いていく。アルバムの締め括りに置いたのは表題曲の「A Spring Breath」。Billboard のライヴではアンコールで披露し、ファンにいち早く届けている。やはりこの曲にも＜ため息で曇っていく＞という鬱屈が前半で描かれる。そして、もう＜君＞が乗っていないことを知りながら、やって来るバスを前に＜息を　吸い込んだ＞僕の哀愁。＜君のいない　未来＞をただ嘆くのではなく静かに受け入れて、季節が巡りまたやって来る春を待ち、生きていく。そんな出会いと別れの混在する情景を、美しくもリアルに描いている。
  
  報じられている通り、彼らは2021年7月に新会社を設立し、大海へと勇敢な船出をしたばかり。そんな4人にとって、CDとしては本作が初のリリースとなる。結成から15年を迎えた2022年。彼らはこれまでとは違った環境で初めての、新しい春を迎える。その挑戦のBGMとしてもふさわしい、しなやかでありながら好奇心に満ち、根源的な音楽への愛情を感じさせるアルバムだと感じた。彼らの踏み出す第一歩を見守り、これから進む道を引き続き追っていきたい。（文・大前多恵）